大阪高等裁判所 平成4年(行コ)23号 判決 1993年5月26日
控訴人
甲野一郎
右訴訟代理人弁護士
玉木昌美
同
小川恭子
被控訴人
草津税務署長伊藤憲司
右指定代理人
源孝治
外三名
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
被控訴人が昭和五七年一一月一〇日付でした
1 控訴人の昭和五四年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち総所得金額一五一六万八九六〇円を超える部分
2 控訴人の昭和五五年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち総所得金額一六七九万九五九二円を超える部分
3 控訴人の昭和五六年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち総所得金額一三五八万〇四一四円を超える部分
をいずれも取り消す。
4 控訴人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は第一、二審ともこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
一控訴の趣旨
1 原判決中、請求棄却部分を取り消す。
2 被控訴人が昭和五七年一一月一〇日付でした
(一) 控訴人の昭和五四年分の所得税の更正のうち税額一二一万四一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定のうち税額三万六九三五円を超える部分
(二) 控訴人の昭和五五年分の所得税の更正のうち税額五〇万二一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定のうち税額二三〇〇円を超える部分(更正・賦課決定のいずれも審査裁決による一部取消し後の部分)
(三) 控訴人の昭和五六年分の所得税の更正のうち税額六一万三八三〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定のうち税額六一〇一円を超える部分(更正・賦課決定のいずれも審査裁決による一部取消し後の部分)
をいずれも取り消す。(昭和五五年分、五六年分の更正・賦課決定については、いずれも当審において請求を減縮)
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二事案の概要
1 課税処分の経過(争いのない事実)
原判決二枚目裏二行目から同一二行目までのとおりであるから、これを引用する。
2 事業所得金額の推計課税の必要性(争点1)
(一) 被控訴人の主張
控訴人は、食料品の小売業者で、白色申告者であるが、本件係争各年分の所得税確定申告書の所得金額欄に所得金額のみを記載して被控訴人に提出した。
被控訴人の担当職員は、昭和五七年八月三日から数回にわたり、控訴人の本件係争各年分の所得金額について、控訴人店舗に臨み、帳簿書類の提示を求める等をして調査をしようとしたが、控訴人は、民主商工会事務局員の立会を強要する等して右調査に協力しようとしなかった。
そのため、被控訴人は、控訴人の本件係争各年分の事業所得金額を推計課税の方法により算出した。
(二) 控訴人の主張
被控訴人は、本件係争各年分の所得金額の調査に際し、控訴人が求めた第三者の立会を拒否し、自ら調査を放棄したものであって、控訴人が調査に協力しなかったために調査をすることができなかったものではないから、本件推計課税は必要性を欠くものである。
3 事業所得金額の推計課税の合理性と実額反証(争点2)
(一) 被控訴人の主張
(1) 推計課税の方法
被控訴人は、控訴人の取引先等を反面調査することにより判明した控訴人の本件係争各年分の仕入先と仕入金額を基礎にして、控訴人と業種、業態、事業規模の類似する青色申告の同業者(食料品小売業者)の平均売上原価率及び算出所得率を適用して、原判決添付別表2記載のとおり、控訴人の本件係争各年分の事業所得金額を推計し、総所得金額を算出したものであり、その内訳は次のとおりである。
(2) 売上原価
同別表2記載の売上原価は、控訴人の本件係争各年分の仕入金額の合計額であり、その明細は原判決添付別表3記載のとおりである。
(3) 売上金額
同別表2記載の売上金額は、前記売上原価を、原判決添付別表4の1ないし3記載の同業者の原価率(売上原価の売上金額に対する割合)の平均値で除して算出したものである。
(4) 算出所得金額
同別表2記載の算出所得金額は、前記売上金額に同別表4の1ないし3記載の同業者の算出所得率(売上金額から売上原価及び一般経費を控除した金額の売上金額に対する割合)の平均値を乗じて算出したものである。
(5) 雇人費
同別表2記載の昭和五五年分、五六年分の雇人費は、控訴人から被控訴人に提出された給与所得等支払状況内訳表に記載された金額であり、五四年分の雇人費は、右五五年分、五六年分の各雇人費率(雇人費の売上金額に対する割合)の平均値を、五四年分の売上金額に乗じて算出したものである。
(6) 建物減価償却費
原判決三枚目表末行から同五枚目表一行目までのとおりであるから、これを引用する。
(7) 事業専従者控除額
原判決五枚目表三行目から同四行目までのとおりであるから、これを引用する。
(二) 控訴人の主張
(1) 原判決添付別表5の1を本判決添付別表5の1に改め、別表5の2を添付する。
(2) 控訴人は、本件係争各年分の売上金額を合理的に推計し、経費を把握可能な実額で算出して別表5の1、2記載のとおり、本件係争各年分の事業所得金額を導いたものであって、被控訴人の用いた推計課税よりも合理性の高いものということができる。
被控訴人は、本件更正に先立ち、控訴人の取引先の一部を反面調査しただけで本件各処分をしたものであって、控訴人からの異議申立てにより明らかとなった取引先について初めて全面的に反面調査を行ったものであり、本件各処分は、被控訴人が単なる憶測に基づいて控訴人の事業所得金額を推計したに過ぎないものである。
控訴人のような零細事業者は、帳簿の記帳能力や資料の保存が不十分であるから、この不十分な資料を前提に事業所得の実額を明らかにすれば、被控訴人のした推計課税の合理性を覆し得るものというべきである。
(3) 売上原価
売上原価のうち、原判決添付別表3記載の昭和五四、五五、五六年分の番号7は同番号33に、同番号13は同番号34に、昭和五四年分の番号31のうち二一一万六九五八円は同番号34にそれぞれ含まれている。その余の売上原価は、同別表3記載のとおりである。従って、売上原価は、本判決添付別表5の1の売上原価欄記載の金額となる。
(4) 売上金額
控訴人は、本件係争各年分の売上関係書類を残していなかったことから、控訴人の仕入先の証明した差益率に基づいて本判決添付別表5の1の売上金額欄記載のとおり算出したものであり、控訴人の売上金額のすべてである。
被控訴人は、控訴人の取り扱っている商品の殆どが京都中央卸売市場と大津卸売市場から仕入れたものであるから、控訴人の仕入先を容易に把握できるのに控訴人の明らかにした以外の仕入先を把握していないのである。
(5) 雇人費
被控訴人の認めた雇人費は、控訴人の本店とストア店のみのものである。
控訴人は、駅前店においても、従業員、パートタイマーを雇用し、同人らに給与を支払っていたものであり、同人らの希望により支払給与について源泉徴収をしていなかったとしても、同人らに対する支払給与を雇人費として認めるべきである。
(6) その他の経費
同別表5の2記載のとおりである。
4 不動産所得金額
原判決五枚目表六行目のとおりであるから、これを引用する。
三当裁判所の判断
1 事業所得金額の推計課税の必要性(争点1)
本件事業所得の算定について、推計課税の必要性があるものと認めるが、その理由は、原判決五枚目裏五行目から同七枚目表一二行目までのとおりであるから、これを引用する。
2 事業所得金額の推計課税の合理性と実額反証(争点2)
(一) 推計課税の方法
被控訴人は、控訴人の取引先等を反面調査することにより判明した本件係争各年分の控訴人の仕入先と仕入金額を基礎にして売上原価を把握し、次いで、控訴人と業種、業態、事業規模が類似すると判断した青色申告の同業者(食料品小売業者)の平均売上原価率を適用して売上金額を算出し、右売上金額に同様の方法で導いた平均算出所得率を適用して算出所得金額を算出した上、雇人費を控訴人の提出した昭和五五、五六年分の給与所得等支給状況内訳表に基づいて実額で(但し、昭和五四年分については右五五年分と五六年分の各雇人費率の平均値からの推計で)把握し、控訴人の主張した建物減価償却費、事業専従者控除額をそのまま認めて、原判決添付別表2記載のとおり本件係争各年分の事業所得金額を算出したものである。(原審証人A、弁論の全趣旨)
(二) 売上原価率及び算出所得率の算定
(1) 売上原価率及び算出所得率の算定と右算定の基礎とされた同業者の選定方法については、次のとおり付加、削除するほか、原判決七枚目裏二行目から同八枚目表八行目までのとおりであるから、これを引用する。
原判決七枚目裏三行目の「同業者(食料品小売業者)の」の次に「本件係争各年分に該当する年分の所得税青色申告決算書に基づいて算出された」を付加する。
同八枚目表七行目の「ものであって、その選定には恣意の介入する余地はない」を削除する。
(2) 右認定事実によると、選定された同業者は、二〇ないし二三件であり、その業種、業態及び事業規模等において控訴人と類似性を有し、しかも所得税申告額について数値の正確性が担保される青色申告者のみであり、又、恣意の介在する余地なく選定されており、同業者の選定基準、選定件数、選定過程等においていずれも合理性があるものと認められるのであって、これらの同業者の当該年分の所得税青色申告書に基づく売上原価率及び算出所得率の算出方法には合理性があるものということができる。
同業者の選定に関する控訴人の反論はいずれも理由がないと判断するが、その理由は、原判決八枚目裏六行目から同一〇枚目表二行目までのとおりであるから、これを引用する。
(三) 売上原価の算定
原判決一〇枚目表九行目から同一二枚目表八行目までのとおりであるから、これを引用する。(但し、原判決一〇枚目裏一行目から二行目にかけての「争いのない事実7」の「7」を削除する。)
(四) 売上金額の算定
原判決一二枚目表一〇行目から同一三枚目表八行目までのとおりであるから、これを引用する。
(五) 算出所得金額
原判決一三枚目表一〇行目から同裏九行目までのとおりであるから、これを引用する。
(六) 雇人費の算定
(1) 被控訴人は、昭和五五年分、五六年分の雇人費については、控訴人から被控訴人に提出された給与所得等支給状況内訳表(<書証番号略>)の記載に基づいて、原判決添付別表2雇人費欄記載の一九九七万六四一六円、一九四五万〇〇七一円と把握し、昭和五四年分の雇人費については、右五五年分、五六年分の各雇人費率の平均値を昭和五四年分の売上金額に乗じて同表2雇人欄記載の二〇〇三万二二三〇円と算出した。これに対し、控訴人は、右給与所得等支給状況内訳表には控訴人の本店とストア店のみの雇人費の一部しか記載されていないとして、昭和五四、五五、五六年分の雇人費について、本店、ストア店に関しては控訴人の作成した給料台帳(<書証番号略>)、賃金月別集計表(<書証番号略>)に基づいて、昭和五四年分を一八四三万四九四三円、五五年分を二〇〇一万二四二六円、五六年分を一九四三万六四一〇円、駅前店に関しては給与明細書(<書証番号略>)に基づいて、昭和五四年分を一二八二万三七九九円、五五年分を一〇九九万三一〇〇円、五六年分を一二一〇万一一六五円(以上内訳は本判決添付別表6の1ないし3記載のとおり。)であるとして、本判決添付別表5の1雇人費欄記載のとおり昭和五四年分を三一二五万八七四二円、五五年分を三一〇〇万五五二六円、五六年分を三一四七万五〇四七円(計算違い)であると主張して争っている。(弁論の全趣旨)
(2) ところで、先にみたとおり、被控訴人は、控訴人の取引先を反面調査することにより判明した仕入先と仕入金額を基礎にして、同業者の平均売上原価率及び算出所得率を適用して、本件係争各年分の算出所得金額を推計の方法で算出したが、雇人費については、控訴人の提出した給与所得等支給状況内訳表の記載に基づいて、実額で(但し、昭和五四年分については五五年分と五六年分の各雇人費率の平均値から推計で)把握したものということができる。このような場合には、控訴人の主張する雇人費の実額について、客観的な帳簿書類等の関係書類による裏付けがあると認められるときは、同業者の経費率に比べ明らかに過大であると認められるような特段の事情のない限り、右の実額による金額をもって、控訴人の本件係争各年分の雇人費の額と認めるのが相当である。
これを本件についてみると、控訴人は、昭和五四、五五、五六年当時、本店、ストア店、駅前店のいずれにおいてもタイムカード(<書証番号略>)により、従業員の勤務時間を管理しており、本店、ストア店の昭和五五年分、五六年分のタイムカードの大部分を保管していた。そして、控訴人は、本店、ストア店においてはタイムカードに基づいて給料台帳(<書証番号略>)、賃金月別集計表(<書証番号略>)を作成して保管していたほか、昭和五五、五六年分については給与所得等支給状況内訳表(<書証番号略>)も作成した。控訴人は、駅前店においてはタイムカードに基づいて給料台帳の代わりに給与明細書(<書証番号略>)を作成してその大部分を保管していたが、本店、ストア店よりも忙しい駅前店の給与が高額となり配偶者控除を受けられなくなるおそれがあるという従業員からの希望を容れて、店長のBとその妻のC以外の従業員については源泉徴収をしなかったため給与所得等支給状況内訳表を作成しなかった(<書証番号略>、原審証人D、同E、同F、同C、原審における控訴人本人)。もっとも、保管されていた本店、ストア店の右タイムカードの記載には、二月三〇日等本来存在しない日に押印されていたり、手書きで残業時間が記載されている等の不自然な個所もみられるが、右記載から直ちに全体としてその信用性が否定されるとまでは言い難いというほかはない。又、駅前店の右給与明細書の記載には、一か月に三五日出勤したことになっていたり、時間給が引き上げられたり引き下げられたり、集計すると従業員の給与の方が店長を上回る結果となったり、夏期、冬期の手当の支給月額が高額に過ぎたり、後日書き直したと窺われる個所もみられたりするが、右記載のうち不自然な個所については個別に検討を要するとしても、右記載から直ちに全体としてその信用性が否定されるまでには至らないというべきである。そうだとすれば、右のような控訴人の給料台帳、賃金月別集計表、給与明細書の作成保管状況からすると、これらの関係書類は全体として信用することができるのであって、これらの関係書類による裏付けのある雇人費については、その記載に疑問を残す個所を除き、控訴人の主張する各年分の雇人費として支出されたものと推認することができるものと考えられる。
(3) まず、控訴人の前記給料台帳、賃金月別集計表、給与明細書の各記載の集計上の誤りを訂正して雇人費を集計し直すと、別表6の1ないし3記載のとおり、本店、ストア店(但し、駅前店の店長Bとその妻Cを含む。以下同じ。)は、昭和五四年分が一八三四万五八五五円、五五年分が二〇〇一万二四一六円、五六年分が一九四三万六四一〇円、駅前店(但し、右B、Cを除く。以下同じ。)は、昭和五四年分が一二八二万三七九九円、五五年分が一〇九七万七八九八円、五六年分が一二一〇万一一六五円、合計は、昭和五四年分が三一一六万九六五四円、昭和五五年分が三〇九九万〇三一四円、昭和五六年分が三一五三万七五七五円となる。
(4) 次に、控訴人の給料台帳、賃金月別集計表、給与明細書の各記載のうち控訴人主張の雇人費と関係する限度で問題点を検討する。
昭和五四年分の本店勤務のGの給料台帳(<書証番号略>)には、同人の冬期賞与として一万八六八五円が支給された旨記載されているが、右給料台帳の記載からGが同年八月以降勤務していないことが認められるから、その他特段の事情の認められない本件のもとにおいては右冬期賞与が支給されたものと認めることは困難である。
昭和五五年分の駅前店勤務Hの一一月分給与明細書(<書証番号略>)には、同人の同月分給与合計額として七万三四三一円と記載されているが、同人の日給額を合計して導かれる額は四万三二四〇円であるから、その他特段の事情の認められない本件ではその差額三万〇一九一円は同月分の給与として支給されたものと認めることは困難である。
昭和五五年分の駅前店勤務Iの四月分、一一月分の給与明細書(<書証番号略>)には、同人の給与合計額として四月分が三万九九四五円、一一月分が四万三一一〇円とそれぞれ記載されているが、同人の日給額を合計して導かれる額は四月分が三万一二四〇円、一一月分が二万八〇六〇円であるから、その他特段の事情の認められない本件のもとにおいては、四月分と一一月分の差額合計二万三七五五円は給与として支給されたものと認めることは困難である。
以上のほか、昭和五四年分の駅前店勤務Jの二月分給与明細書(<書証番号略>)には、同人の同月分給与として二六日分が二個所に記載されているが、金額も少なく分けて記載されただけと窺える余地もあり、右記載から直ちに重複があるものと推認することはできない。
昭和五四年分の駅前店勤務Kの給与明細書(<書証番号略>)には、一一月に三五日出勤したように記載されているが、同人が七月から一二月まで勤務していたことが窺われるから(<書証番号略>)、いずれかが一〇月分と推認することができ、右記載から一一月分の給与支払を疑問視することは困難である。
昭和五五年分の駅前店勤務Lの給与明細書(<書証番号略>)には、五三を五五と訂正して五五年七月分給与が記載されており、しかも、同人が八、九月と勤務しないで一〇、一一月と勤務していること(<書証番号略>)から疑問も残るが、右記載だけから直ちに同人の七月分給与としての支給を否定することは困難である。
昭和五四年分の駅前店勤務Dの夏期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)には、同手当が有給休暇を含めて算出されているように記載されているが、原審における控訴人本人の供述から駅前店における有給休暇の存在自体が必ずしも明らかでないことから、右記載から一般的には有給休暇を含めないで算出されるという同手当が水増しされたものと認めることは困難である。
その他、昭和五五年分の駅前店勤務Mの夏期・冬期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)、同年分の駅前店勤務Dの夏期・冬期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)には、いずれも手当の支給月数が二か月から三か月に訂正され、Mの右給与明細書の夏期手当の合計金額欄には二か月分の金額が訂正されないまま残されていること(<書証番号略>、原審証人Dの証言から、手当として三か月分の受給を否定しているとまでは認められない。)、同年分の駅前店勤務Nの夏期手当、同Oの夏期・冬期手当の記載された同年分雇人費メモ(<書証番号略>)には、いずれもその算出根拠の記載を欠き不明確であること、同年分の駅前店勤務Pの冬期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)には、同手当として平均給与の三か月分と記載されているが、同人が同年中に三か月しか勤務していないことが窺われる(<書証番号略>)にも拘わらず三か月分もの手当が支給されたことになること、昭和五六年分の駅前店勤務Oの夏期・冬期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)には、その算出根拠を欠き不明確であること、昭和五四年分の駅前店勤務Dの夏期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)、昭和五六年分の駅前店勤務Nの夏期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)、同年分の駅前店勤務Pの夏期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)には、いずれも同手当の計算の基礎となるべき給与の記載された給与明細書の一部を欠いていること(原審証人Cは、右欠落している給与明細書について紛失しただけであると証言している。)、昭和五四年分の駅前店勤務Mの冬期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)、同年分の駅前店勤務Eの冬期手当の記載された給与明細書(<書証番号略>)には、いずれも同手当の計算の基礎となるべき給与の記載された給与明細書の記載金額との間にわずかながら齟齬がみられること、昭和五六年分の本店勤務Q、同R、同Sの給与については、いずれも給料台帳が欠落していることが認められるが、右各記載金額には右にみたような不明確さが残るということだけから直ちに同人らに対し雇人費として支給されたことを否定するまでには至らないというべきである。
本店、ストア店勤務Tの昭和五五年五月分、七月分、一〇月分、一二月分、五六年三月分、五月分、一〇月分、一二月分、同Uの五五年五月分、七月分、一〇月分、一二月分、五六年三月分、五月分、七月分、一〇月分、一二月分、同V、同W、同X、同Y、同Rの各五五年一一月分のタイムカード(<書証番号略>)には、本来存在しない日に出勤したように記載されている個所がみられるが、右カードに基づいて作成された給料台帳に記載されている労働日数はいずれも存在する該当月の日数を超えていないことが認められるから(<書証番号略>)、右タイムカードの記載から直ちに給料台帳の労働日数に基づいて算出された給与を否定することは困難というほかはない。
本店、ストア店勤務の従業員のタイムカード(<書証番号略>)には、残業時間が手書きで書き込まれている個所があるが、原審における控訴人本人の供述から本店、ストア店の勤務がすべて勤務時間内に終了していたものとまで認めることはできないのであって、残業時間の記載部分が直ちに給与の水増しと推認することは困難である。
駅前店勤務Mの昭和五四年分の給与明細書(<書証番号略>)、同Oの五五年分の給与明細書(<書証番号略>)、同Nの五五年分の給与明細書(<書証番号略>)には、時間給単価が上下して記載されており、また、同Oの昭和五五年一二月分の給与明細書(<書証番号略>)、同Eの五五年一二月分の給与明細書(<書証番号略>)、同Pの五五年一二月分の給与明細書(<書証番号略>)には、いずれも月の中途で時間給単価が上下して記載されているが、右のような取扱が異例である(原審における控訴人本人)というだけで、右記載部分が直ちに不自然であるとして否定することは困難である。
昭和五四、五五、五六年分の駅前店勤務E、同D及び同Mの給与、昭和五四、五六年分の同Pの給与が駅前店長Bの給与を上回っていること、昭和五四、五五、五六年分の駅前店勤務の従業員の夏期・冬期手当三か月分が本店、ストア店勤務の従業員の夏期・冬期手当一か月分に比較して高額に過ぎることが認められるが、その他特段の事情の認められない本件のもとにおいては、いずれも右事実だけで駅前店長を上回る給与、三か月分手当が不合理であるとして否定することは困難である。
(5) 昭和五五、五六年分の給与所得等支給状況内訳表(<書証番号略>)について、被控訴人は、駅前店においても従業員から源泉徴収、雇用保険料の徴収がなされていたとみることができるから、本店、ストア店のみでなく駅前店の雇人費も含まれているとみるべきであると主張するが、先にみたとおり、駅前店の昭和五四、五五、五六年分の雇人費について作成、保管されている前記給与明細書が全体として信用できるものである以上、被控訴人の右主張は理由がないというほかはない。なお、昭和五五年分の給与所得等支給状況内訳表には、Rの同年一〇月分給与七万二〇〇〇円の計上漏れのあることは明らかである(<書証番号略>)。
(6) 以上により雇人費を計算すると、本店、ストア店は、昭和五四年分が一八三四万五八五五円から一万八六八五円を差し引いた一八三二万七一七〇円、五五年分が二〇〇一万二四一六円、五六年分が一九四三万六四一〇円、駅前店は、昭和五四年分が一二八二万三七九九円、五五年分が一〇九七万七八九八円から五万三九四六円を差し引いた一〇九二万三九五二円、五六年分が一二一〇万一一六五円となり、合計すると、昭和五四年分が三一一五万〇九六九円、五五年分が三〇九三万六三六八円、五六年分が三一五三万七五七五円となるところ、右雇人費が同業者の雇人費率に比べ明らかに過大であると認められるような特段の事情の認められない本件のもとにおいては、右金額をもって控訴人の本件係争各年分の雇人費の額と認めるのが相当である。
(七) 建物減価償却費
原判決一五枚目裏一二行目から同末行までのとおりであるから、これを引用する。
(八) 事業専従者控除額
原判決一六枚目表二行目のとおりであるから、これを引用する。
(九) 事業所得金額の算定
以上により事業所得金額を計算すると、昭和五四年分は、算出所得金額四六五八万九八四四円から雇人費三一一五万〇九六九円、建物減価償却費二〇万〇三一五円、事業専従者控除額八〇万円を控除すると一四四三万八五六〇円、五五年分は同様に計算すると一六〇六万九一九二円、五六年分は一二八五万〇〇一四円となる。
3 不動産所得金額の算定
控訴人の本件係争各年分の不動産所得金額は、原判決添付別表2の⑪記載のとおりである。(争いがない。)
4 総所得金額の算定
以上により控訴人の本件各係争年分の総所得額を計算すると、昭和五四年分は一五一六万八九六〇円、昭和五五年分は一六七九万九五九二円、昭和五六年分は一三五八万〇四一四円となる。
四結論
以上の理由により、本件各処分の取り消しを求める控訴人の請求(昭和五五年分、五六年分の更正・賦課決定の取消請求については、いずれも当審において、審査裁決により一部取消し後の部分に減縮されているほか、昭和五五年分については、取り消すべき税額の最下限を引き上げることにより減縮されている。)は、本件各処分のうち前記認定にかかる本件係争各年分の総所得金額を超える部分に相当する部分の取り消しを求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容すべきであり、その余は理由がないから棄却すべきであり、右と結論の一部を異にする原判決を右のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 福永政彦 裁判官 山下郁夫)
別表<省略>